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東京高等裁判所 昭和23年(ネ)495号 判決

控訴人 被告 後関船三 外一人

訴訟代理人 高井正一

被控訴人 原告 喜多とみ

訴訟代理人 寺口健造

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、本件土地に建物を築造するには、都市計画法、昭和二十一年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する勅令及び昭和二十一年戦災復興院告示第九十七号等の規定によつて、地方長官の許可を必要とするのであるから、控訴人等は被控訴人に対し、本件土地の賃貸申出をするについては、該土地に建物を築造するにつき地方長官の許可を得た上で、これをなすべきであるに拘らず、その許可を得ないで申出をしたのであるから、控訴人等の賃借申出は無効である。被控訴人が昭和二十三年一月十二日地方長官から本件土地に建物を築造することの許可を得たことは認める。然し控訴人等は本件土地の旧借主又は疎開建物の旧借主として、罹災都市借地借家臨時処理法(以下単に臨時処理法と略称する)の規定により本件土地の賃借申出をする為め、被控訴人の受けた右許可と重複して地方長官から建物築造につき許可を受けることができるのであるから、控訴人等のこの点に関する主張は理由がないと述べ、控訴人等代理人において、控訴人後関船三は昭和二十一年暮頃被控訴人に対し本件土地の賃借申出をしたのである。本件土地が被控訴人主張のように、地上に建物を築造するにつき地方長官の許可を要する土地であることは知らない。仮に被控訴人主張のように地方長官の許可を必要とする土地であるとしても、控訴人後閑は昭和二十一年暮に被控訴人に対し本件土地の賃借申出をする頃は、被控訴人との間に借地関係の爭があつて事実上建物築造の許可を受けることができなかつた。而して許可は予めこれを受けることを要しないから、同控訴人はその後許可を受けようと思つていたところ、被控訴人の方で昭和二十三年一月十二日その許可を受けてしまつたので、同控訴人は最早重複して許可を受けることができなくなつてしまつたから、その許可の申請をしなかつたのである。かような場合には賃借申出について建物築造の許可は全然要らないのである。次に控訴会社が昭和二十三年九月四日被控訴人に対し本件土地の賃借申出をしたときは、右のように被控訴人において建物築造の許可を得て居り、控訴会社は重複して許可を受けることができなかつたのであるから、右賃借申出には全然許可は要らないのである、と述べた外は、原審判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は甲第一乃至第四号証、第五号証の一、二第六号証、第七、八号証の各一、二を提出し、原審証人野沢広治の証言及び原審における被控訴本人喜多とみの訊問の結果を援用し、乙号各証の成立を認め、控訴人等代理人は、乙第一、二号証、第三号証の一、二を提出し原審における控訴本人兼控訴会社代表者後関船三の訊問の結果を援用し、甲第八号証の一、二中官署の作成部分は認めるがその他の部分は不知、その他の甲号各証の成立を認める、と述べた。

理由

被控訴人先代喜多徳春が昭和十三年十二月一日、その所有の東京都中央区西八丁堀四丁目十番地の二宅地百五十五坪三合二勺の内約四十一坪九合を、控訴人後関に対し、普通建物所有の目的で、賃料一ケ月三十七円七十銭、賃貸期間二十年の定めで賃貸したが、徳春は昭和十九年三月四日死亡し、被控訴人がその家督相続をして右土地の所有権を取得し且つ右賃貸人の地位を承継したこと、控訴人後関は右賃借地の上に建物を所有していたが、該建物は昭和十九年十二月中強制疎開により収去されて、右土地の賃借権も消滅したこと及び同控訴人が昭和二十一年暮臨時処理法に基ずいて被控訴人に対し右土地につき建物所有の目的で賃借の申出をしたことは当事者間に爭がない。

被控訴人は、本件土地は、都市計画法、昭和二十一年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する勅令、昭和二十一年戦災復興院告示第九十七号等の規定によつて、建物を築造するにつき地方長官の許可を必要とするに拘らず、控訴人後関は、その許可を得ないで、被控訴人に対し本件土地の賃借申出をしたのであるから、右賃借申出は無効である、と主張するから審按するに、本件土地が都市計画法第十一条ノ二の規定により都市計画として内閣の許可を受けた土地区劃整理の区域内にあることは、昭和二十一年戦災復興院告示第九十七号東京都市計画地域指定の件により明かであるから、昭和二十一年八月十五日勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する勅令第三条により同勅令の施行された同日以降は、地方長官の許可がなければ本件土地に建物の築造ができないものといわねばならない。従つて本件土地は臨時処理法第九条により準用せられる同法第二条にいわゆる「他の法令により、その土地に建物を築造するについて許可を必要とする」土地に該当するから、控訴人後関は被控訴人に対し前記賃借申出をするについては、本件土地に建物を築造するにつき予め地方長官の許可を得るか、少くともその許可の申請をした上で地方長官の許可を停止条件としてでなければ賃借申出をすることができないことは、同条の規定により明瞭である。然るに同控訴人が昭和二十一年暮に前記賃借申出をするにつき、かかる許可を得ていないし又許可の申請もしていないことは、同控訴人の自認するところであつて、その当時地主たる被控訴人との間に爭があつたとしても、かかる許可又は許可の申請を要しない理由とはならないから、同控訴人の前記土地賃借の申出は無効である。

又右のように本件賃借申出には、予め建物築造の許可を得るか少くとも許可申請を要するのであるから、同控訴人の被控訴人が昭和二十三年一月十二日にその許可を受けてしまつたから、同控訴人は本件賃借申出にはこれが許可を要しないものであるという主張は採用することができない。従つて同控訴人は右賃借申出により本件土地につき何等賃借権を取得することができなかつたものというべきである。而して同控訴人が現に前記申出によつて、本件土地の賃借権を取得したものであるとして、被控訴人と爭つていることは、本件弁論の趣旨により明かであるから、被控訴人が、かかる賃借権がないことを即時に確定する法律上の利益があることは勿論であり、従つて同控訴人に対しかかる賃借権の存しないことの確認を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。次に控訴会社が昭和二十一年頃から、本件土地を鉄材料等の置場として使用占有していることは当事者間に爭がない。控訴会社は昭和二十三年九月四日本訴で本件土地の疎開建物が除却された当時の建物の借主として、被控訴人に対し本件土地の賃借申出をしたから、本件土地の賃借権を取得したものであると主張するから按ずるに、控訴会社が昭和二十三年九月四日本訴で本件土地の賃借申出をしたことは、同日の口頭弁論調書(記録第七十五丁)の記載により明かであつて、右申出をするについても控訴会社が予め地方長官に建物築造の許可を受けず又許可の申請もしなかつたことは、控訴会社の自認するところである。この点について控訴会社は本件土地については既に同年一月十二日被控訴人の方で建物築造の許可を得ておるから(この事実は爭がない)控訴会社は本件賃借申出をするにつきその許可を要しないと主張するけれども、かような場合でも建物築造について地方長官の許可を得るか少くとも許可の申請をした上でなければ賃借申出ができないものと解するのが正当であるから、控訴会社の右申出は臨時処理法第二条の要件を具備しない無効のものであるというべきである。蓋し建物築造につき地方長官の許可を必要とする土地に対し重複して賃借申出をする場合のあることは臨時処理法第十六条によつても明白であり、かかる賃借申出をすることのできる者から建物築造の許可申請があつた場合には、地方長官はその申請者をして適法に賃借申出をさせる為めに、重複して許可を与えることができるものと解すべきであるから、既にその許可があつた土地について賃借申出をする場合でも賃借申出者はその許可を受けるか少くとも許可申請をしなければならないものと解すべきだからである。従つて控訴会社の前記主張は採用することができない。

而して控訴会社が他に本件土地を占有すべき権原があることについては、何等の主張も立証もしないから、控訴会社は本件土地を不法に占有して、被控訴人の本件土地に対する所有権を侵害しているものというべきである。而して被控訴人は控訴会社から本件土地の所有権を侵害されている為め、反証なき限り本件土地の賃料に相当する損害を蒙つているものと認定するのが相当であり、その相当賃料が一ケ月金三十七円七十銭を下らないことは当事者間に爭ないところであるから、控訴会社は被控訴人に対し、本件土地を明渡し、且つ昭和二十二年十月二十四日から本件土地の明渡をすますまで、一ケ月金三十七円七十銭の割合による損害金を支払うべき義務があること明かである。従つて被控訴人の控訴会社に対する本訴請求も正当としてこれを認容すべきである。

然らば右と同趣旨にいでた原判決は相当であるから、控訴人等の控訴はこれを棄却すべきである。依つて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条、第九十三条により主文の通り判決する。

(裁判長判事 大野璋五 判事 柳川昌勝 判事 浜田宗四郎)

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